新潟大学 医歯学系・システム生化学分野 | 大学院医歯学総合研究科・オミクス生物学分野

新潟大学 医歯学系 システム生化学分野 / 大学院医歯学総合研究科 オミクス生物学分野

Department of Omics and Systems Biology Niigata University

プロテオーム研究とは?

われわれが代々受け継いできた遺伝情報(その全体をゲノムと呼ぶ)は染色体上に四種類の塩基(AGCT)の配列としてコードされています。ゲノム配列情報=生命の設計図と考えられ、世界中でゲノム解読プロジェクトが進行しました。2000年代前半にはヒトや主要なモデル生物種のゲノム配列の解読が完了し、ポストゲノム時代が到来したわけです。しかしながら、解読されたゲノム配列は生命を構成する部品リストであり、生命の設計図とは程遠いものでした。

生命がどのような仕組みで動作しているかを理解するためにはこれらの部品がどのように組み合わさり、システムを構成しているかを知る必要があります。ほとんどの遺伝子は転写、翻訳されてタンパク質となりその機能を発揮します。つまりゲノムはプロテオーム(ゲノムから発現するタンパク質の総体)に変換され、その中で構築された回路によって生命システムが動作しています。したがって、生命の設計図を描くには、タンパク質の発現量や機能を定量的に計測し、プロテオームが織りなす分子ネットワークの構造や機能を知ることが重要です。

ゲノムの機能は“遺伝情報の保持と発現”と要約することが可能ですが、各々が固有の機能や性質を持っているタンパク質の総体であるプロテオームの機能を端的に記述することができません。言い換えると、プロテオームはそれだけ多様な情報を内包しており、これらの情報の読み解きが生命システムを理解する上で極めて重要と考えられます。また、個々の細胞において各々の遺伝子は常に一定であるのに対して、タンパク質は極めて広い存在量幅(ヒトの細胞では10の6乗以上と言われている)を持っており、その状態は刻一刻と変化します。これら機能や性質の多様性や、広い存在量幅、さらには動的な存在様式などがプロテオームを研究する意義や醍醐味でありますが、その反面、この複雑で巨大なプロテオームを一網打尽に研究する手法は未だ存在しません。

私たちの研究スタイル

そこで、私たちの研究室では最先端の解析技術を常にキャッチアップしつつも、自ら常にプロテオーム解析のための技術開発を行っています。このような戦略をとることで、研究の目的に柔軟に対応した技術を利用することができますし、オリジナルの技術によって他では得ることができないデータも取得することが可能です。以下、現在進めている主な技術開発とその応用研究のテーマを解説します。

私たちの研究室では最先端プロテオーム解析技術を使った基礎医学や生物学研究もできますし、マニアックな技術開発研究も可能です。ご興味のある方は是非、ご連絡ください。私たちと一緒に誰もみたことがないプロテオームの世界を探索しましょう。

Project紹介

プロテオーム解析技術

私たちは、“定量プロテオミクス”をキーワードに技術開発を行ってきました。タンパク質の発現量はもちろん、タンパク質上で生じる翻訳後修飾やタンパク質間相互作用の解析技術など様々な技術を開発し、応用しています。

特に、タンパク質の発現量に関しては、世界で初めて網羅的な組み換えヒトタンパク質ライブラリー(in vitro proteome: 20000種類以上のタンパク質)とターゲットプロテオミクスと呼ばれる精密定量が可能な質量分析技術を組み合わせることで、次世代型定量プロテオミクスプラットフォームであるiMPAQT(in vitro proteome-assisted MRM for Protein Absolute QuanTification)を開発しました。iMPAQT法を用いれば、多くのタンパク質の迅速に絶対定量することが可能です。現在は、このiMPAQT法をさらに改良して感度や網羅性を上げるための技術開発を積極的に進めています。また、タンパク質間相互作用の解析法に応用するなど利用法の拡張も行っています。

プロテオーム解析技術

プロテオームインフォマティクス

質量分析計を用いたプロテオーム解析では、膨大なスペクトルデータなどを解析したり、得られたデータの精査や統計処理が必要となります。また、得られたデータの保持・管理や再解析のためのデータベースの開発なども必須です。私たちは、多数の解析ソフトウェアやデータベースを作成しています。

また、国際コンソーシアムであるPXC (ProteomeXchange Consortium) の一員として質量分析データの公共リポジトリ/再解析データベースであるjPOST (Japan Proteome Standard Repository/Database)の開発にも参加しています。各データベースやツールは以下からアクセスできます。

   

細胞状態のマルチオミクス解析

細胞状態のマルチオミクス解析私たちは、細胞がん化や老化、あるいは分化など様々な細胞状態の分子実体を明らかにすることを目標にしています。代謝をはじめとする細胞内サブシステムの構成要素の存在量を精密に計測することや、タンパク質の翻訳や品質管理、あるいは分解などの動態を経時的に計測することによって、異なる細胞状態でプロテオーム階層に何が起きているかを定量的に記述し、これらの細胞状態の本質に迫りたいと考えています。

また、メタボローム解析やトランスクリプトーム解析なども行い、プロテオームデータと統合することで、各種細胞状態の包括的な理解に挑みます。

未開拓プロテオームの解明

もともと複雑で膨大なプロテオームですが、最近、プロテオームはこれまで考えられていた以上に広大である可能性が示されています。例えば、私たちはこれまでノンコーディングRNAだと思われていた転写産物からタンパク質が翻訳され機能を持ったタンパク質として発現していることを見出しました。また、異常スプライシング、翻訳途上終結、ストップコドンのリードスルー、RAN翻訳などさまざまな非典型的翻訳が見出されており、ゲノムには隠された広大な未開拓プロテオームが存在する可能性が示唆されています。私たちは、最新のプロテオーム解析技術を適用することで、このような未開拓プロテオームの実体を把握することを目指しています。